ライブ撮影を行う上での機材選定、推奨設定、実践的なテクニック、および納品・プロとしての振る舞いに関する要点をまとめたものです。

1. 機材選定と準備
1-1. 推奨レンズ構成
- オールインワン: 1本で済ませるなら、24-120mmや24-105mmなどの標準〜望遠域をカバーする高倍率ズームレンズが有効です。これにより、標準、望遠、広角の絵を撮り分けることができます。
1-2. あると良いグッズ
- 耳栓: スピーカーの直前で撮影することもあるため、聴覚保護のために必須です。(楽器店のドラムコーナーなどで入手可能)
- パーマセル(黒い布テープ):
- レンズフードが外れないように固定する。
- カメラのAF補助光に貼り、光が漏れないように隠す。
- 小さいカメラバッグ: ブロワー、予備バッテリー、単焦点レンズなどをコンパクトに収納する。
- 服装: 全身黒めで統一し、黒子に徹することが基本姿勢となります。

2. 基本的なカメラ設定
2-1. 露出設定
| 項目 | 推奨設定 | 留意点 |
| ホワイトバランス (WB) | 基本的にAWB (オートホワイトバランス) | 光源が安定しないライブ環境では、RAWで後編集することも視野に入れつつ、まずはAWBで対応。 |
| シャッタースピード (SS) | 1/125秒〜1/200秒を基本とする。 | |
| SS:ボーカル | 1/200秒あたりから。動きが早ければさらに速度を上げる。 | |
| SS:ドラム | 動きを止めたい場合は1/400秒。 | |
| ISO感度 | 手動設定が多いが、オートでも運用可能。 | |
| F値 (絞り) | 広く(全体を)撮る場合: F5〜F5.6 | 被写界深度を深くとり、広くピントを合わせる。 |
| F値 (絞り) | 個人に寄る場合: F2.8〜F4 | ボケを活かし、被写体を強調する。 |
2-2. フォーカスと画像形式
- AF (オートフォーカス): 瞳AFよりもスポットAFを推奨。マイクが顔の前にかかると瞳AFが外れやすいため、確実なピント合わせにはスポットAFが有利です。
- 画像形式: RAW+JPEG。速報での提出を求められることが多いため、JPEGを同時に記録します。
- その他: アクティブDライティングをオンにする。
3. ライブ撮影の技術とアプローチ
3-1. 撮影の組み立て
- 時間軸での撮影: 1曲で全ての絵を撮り切ろうとしないこと。2〜3曲をかけて、ポジションチェンジやレンズ交換を行いながら、完成度の高い絵を作り上げる時間的余裕を持ちます。
- シャッターの押し方: ボーカルなどの良い表情を撮り逃さないために、瞬間的な**「指連写」**を意識して行う。
3-2. シーン別の撮影
- 広角での活用:
- タイミング: 曲のサビや終盤など、会場全体に光が広がり行き渡る時に広く撮ります。
- 使い方: 広角レンズでも被写体に寄って使うことで、パースペクティブ(遠近感)を強調したダイナミックな表現が可能になります。
- 盛り上がりシーン: 後ろに下がり、観客(お客さん)を画面に入れて会場の熱気を伝えます。
- ディテール撮影: 手元や足元のアップを入れ、表現に深みを出します。
- 構図は三分割法などを活用し、顔が向いている方向の前方を空けるように配置します。
3-3. 撮影後の確認(ライブハウスでの実践)
- 再生画面の確認: ライブハウス内では、再生画面をモニターで見ずに、ファインダーを覗いて確認します。
- ヒストグラムチェック: 撮影後すぐにヒストグラムを確認し、露出の適正さをチェックします。

4. 表現を広げる特殊撮影技術
- スローシャッター:
- 設定: 1/30秒〜1/20秒程度の低速SSを使う。
- テクニック: ズーム操作をしながらシャッターを切る、またはカメラを回す・振るなどの動作を加え、光の軌跡や躍動感を表現します。
- 多重露光: 複数の写真を重ねて非現実的・幻想的な絵を作ります。
- オムニフィルター、三角鏡など: 写真に光学的変化を加え、ユニークな表現を目指します。
- カスタム設定(ユーザー設定)の活用: スローシャッター用の設定や、ライブ後の集合写真のセッティング(ストロボ設定など)をユーザー設定に登録しておくと、撮影中に素早く移行できます。
5. 編集と納品のポイント
5-1. 編集時の注意点
- ノイズ処理: ライブの臨場感を残すため、ノイズはあえてあまりキレイにしすぎないことが重要です。調整はノイズ低減10〜20程度に留めます。
- AIノイズ低減: ステージと客席の明暗差が激しく、ノイズが盛大に出る場合にのみ、AIノイズ低減を活用します。
- ハイライト・シャドウ調整: Lightroomなどのソフトで**「リフトシャドー」**が表現に「ハマる」場合に利用します。
- モノクロ変換: 色が出せない、または雰囲気を強調したい場合は、モノクロ(白黒)表現も有効な選択肢です。
5-2. 納品基準
- 枚数目安: 5曲(約30分)の演奏で300枚程度シャッターを切り、最終的な納品は100枚程度を目安とします。
- 似たカットの排除: 似たカットは出さないのが基本原則です。
- 似たカットの活用: どうしても両方出したい場合は、編集でトリミングなどを施し、**「違う絵」**として見えるように加工します。
6. プロとしての実践(導線と仕事の広げ方)
- 導線確認: 撮影前に、主催の舞台監督、バンド、ライブハウスのスタッフなどに、撮影可能エリアやタイミングの確認を必ず行います。
- 仕事の広げ方: ライブ撮影の経験と実績は、まずは友達や知り合いのバンドを撮ることから始めます。ブッキングライブなどで、一緒に入っている他のバンドを撮らせてもらうことで、一つずつ実績を広げていきます。

